2025年ももう間もなく幕を閉じる。思い返すと、今年もさまざまな事業者、仕事に関わらせていただき、そのことに対する感謝の気持ちは絶えない。

企業には業績が良いところもあれば、そうではないところもある。業績と言うと幅広い解釈が可能だが、一般的には売上と利益の水準、増減の度合いということになるだろう。中小企業診断士として開業して14年目に入っているが、一般論として、自社の業績を適時・適切に把握できている企業ほど業況は良好というのが実感である。逆に自社の売上や利益の状況を理解できていなければ、やるべきことも曖昧になるわけで、当然のことではあるが・・・。
そんな中で、売上や年商は頭の中に入っていても、利益がどうなっているのかを押さえていない社長はかなり多い。企業訪問等でのヒアリングでもそのような場面によく行き当たる。売上は、社長自身も日常的にみている事業活動での収入の累積でため把握しやすい。他方で利益は、仕入やその他の原価との対比が必要となり、把握するのに一手間・二手間を要する。つまり利益の把握は面倒なのである。しかしながら、この面倒なことこそが重要なわけで、会計事務所はそのために利用すべき手段なのである。月次の試算表は、売上だけでなく利益の定点観測をするための有用なツールでもある。

Business growth graph, AI generated image

さて、把握が面倒な利益よりもわかりやすく売上に傾斜するのは慎重になる方が良い。
表題の「売上は全てを癒す」は、一説にはダイエーの中内功氏の言葉とされている。売上が伸びれば組織内の問題が解消され、会社全体が好転する・・・という格言なのだが、ダイエーがどのような道をたどったかを見れば、少なくとも正解だったとは言えない。
3年ほど前になるが、日経の朝刊で「『ヨドバシ鉄道』衰えぬ勢い」という見出しで衰退する百貨店業態の間隙を縫って台頭するヨドバシカメラの戦略を取り上げている。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66432130Q2A131C2TB1000/

その記事にあったヨドバシカメラ創業者の藤沢昭和氏の「売り上げじゃ、おまんまを食えない」という言葉が鮮明に記憶に残っている。売上を伸ばせば儲かるというのは幻想である。

「10億円の壁」、「100億円の壁」とも言われるが、売上はたしかに企業規模の尺度にはなるものの、経営の優劣には直結しない。もちろん10億円規模の企業組織の運営を実現するための人材や能力には価値があるが、10億円という売上はあくまでも結果に過ぎない。売上は目標にはなっても目的にはなり得ない。売上拡大のために事業多角化やM&Aを進めるというのは本末転倒である。
売上伸長や規模拡大を企業の成長とみなす考え方もあるが、これでは原因と結果が逆だ。企業の成長とは人材や組織の成長の総和であり、企業が成長するから売上も伸長するのである。