戦略に関わる最も有名な著書である「孫子」、もう一つの大著「戦争論」。
同じ戦略論でも両者の考え方には異なる特徴があり、孫子の根底には大局的視点があり、対照的に戦争論は本質追求を重視している。
「戦略では大局的視点も本質追求も大切ということであるが、どちらがより重要なのだろうか?」と発問したが、優劣があるとは思わない。あくまでもケースバイケースで使い分けが大切であって、そのためにバランス感覚やセンスを磨かなくてはならない。
ただ、圧倒的な物量を投入したにも関わらずベトナム戦争に実質的に敗北した米国では、それ以降孫子の研究に注力するようになったとされる。孫子には「詭道」という重要な考え方があるが、ベトナム軍が戦力格差を補うために駆使したゲリラ戦は一種の詭道である。戦争論にもとづく物量重視の戦略が有効に機能しなかったことを踏まえ、米国は孫子に注目したとも考えられる。

01 | 9月 | 2020 | Swan Style

ところで大局的視点、さらに関係性を重視する東洋的な考え方は、まったく異なる分野でも有効だったりもする。

■パンを食べると腰痛になる???
話はそれるが、私は腰痛を持病に抱えていて、おそらく完治はしないでの一生付き合っていくことになると思っている。10年ほど前、ひどい痛みに襲われ2日ほどほとんど動けない状態となり、今まで生きていた中で一番の苦痛となった。その時に通院していた整骨院の先生は治療もしてくださったのだが、合せて生活習慣の見直しも勧めてくれた。私の腰痛の原因は、体の堅さ、そして腰の冷えであり、冷えを抑制するためには冷たいもの、甘いものを控えること。さらにパン食もやめるように指導された。「なぜパンで腰痛?」と思ったが、パン食は消化時に胃の負担が大きく、胃に血液が集まることで体が冷えるのだという。そんなことはまったく知らなかったのだが、ヒトの体の複雑さというか神秘のようなものを感じた記憶がある。結局それ以来、朝食をパンではなくご飯に替え、体を冷やすビール、コーヒーの摂取量は減らしている。ビールもコーヒーも好きなので、止めてストレスにならないようにほどほどに楽しむようにしている。腰痛も疲労がたまっていると発症するが、あの時以来動けなくなるという状態にはなっていない。体質改善ができたのだと思う。

■孫子に代表される東洋的な思考の価値
腰痛の話は蛇足だったが、問題を大局的に俯瞰しながら関係性を捉えることは、診断士の実務でも必要だ。腰痛は患部を治療するよりも生活習慣の改善が効果的だったが、これは企業の経営改善にも当てはまると思う。つまり、窮境要因の除去はまさに本質追求であって短期的に必要であるが、中長期的には会社の経営体質を良好にすることがより重要になってくる。経営者・従業員の意識改革・行動変容、本業の強化・磨き上げによる付加価値増大があってこそ、経営改善が成し遂げられるのではないか。