近々公募が予定されている「事業再構築補助金」への関心度はかなり高く、商工団体や金融機関などの支援機関、さらに設備メーカーやベンダーなどが説明会やセミナーを各地で開催している。コロナ禍での経営戦略転換の支援がこの補助金の元々の趣旨だが、コロナでさんざんな目に遭っている飲食サービス業も事業再構築補助金の主要な対象業種であり、店内飲食からデリバリーやテイクアウトへの移行などは支援対象になり得る。

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■飲食デリバリーの現状
コロナ感染拡大にともないデリバリーの市場は急速に拡大している。たとえば業界大手「出前館」の売上は、2020年8月期が前期比で1.5倍強増加し、さらに今期2021年8月期もさらに倍増すると予想されている。また業界の双璧とも言えるUber Eatsも同様に業容を急速に拡大している。コロナ禍で消費者の購買行動が大きく変化し、いわゆる「巣籠もり需要」が堅調な中で、デリバリー市場の伸長可能性は相応にあると考えられ、そこに事業者が続々と参入している。店内飲食の来客数の減少をデリバリーで補完している飲食事業者も徐々に増加しつつあり、さらにデリバリー参入を支援するビジネスも注目されている、いわゆる「ゴーストレストラン」をチェーン展開するTGAL(https://tgal.jp/)は、自社で蓄積したノウハウを活かし、デリバリー向け商品導入に向けてレシピ提供や食材供給等を支援している。

■市場は「レッドオーシャン」に?
デリバリーの市場拡大はたしかに事業機会と捉えることができるが、他方で新規参入の増加は競争を激化させ、市場は「レッドオーシャン」になる可能性が高い。大手の出前館やUber  Eatsはレッドオーシャンになりつつある市場の陣取り合戦にしのぎを削っており、加盟する飲食店の囲い込みや配達体制の強化、受発注システムの増強などを進めている。実は前述した出前館の業績は、大幅増収ではあるものの赤字が拡大しており、今期もさらに大幅な赤字増加が予想されている。

■本当に検討すべき戦略は?
コロナ収束の見通しが不透明な中で、当面の事業継続に向けてデリバリービジネスへの参入を検討すること自体は問題ない。しかしながら、市場の競争激化の中では当然優勝劣敗は進行するわけで、競争力を確立できることが生き残りの前提である。事業性構築補助金を活用しつつデリバリービジネスに経営資源を集中させる・・・これは1つの戦略だろう。
他方で、長期的な視点でコロナ収束を見すえながら、店内飲食での生き残りを模索するのも、これまた1つの戦略だ。飲食サービス業の本来的な価値は「Q・S・C」、つまり料理の良質さ(Quality)とホールでの接客サービス(Service)、そして店内・店外の清潔感や雰囲気(Cleanliness)である。仮に優れた接客サービスや一般家庭とは異なる店内の雰囲気をウリにしている飲食店であれば、デリバリーはあくまでも緊急的、補完的な位置付けにとどめる方が良いだろう。
「みんな始めているから」「市場が拡大しているから」は、経営戦略の選択肢を検討する段階では可だが、それは最終的な意思決定の根拠にはなり得ない。なぜならば、中小事業者にとっての戦略(=生き残り)の本質は、差異性の発揮だからである。「誰もやらないから」「他がやめているから」にこそチャンスはある。