サッカーW杯で日本代表が決勝トーナメントに進出すると予想したのは、間違いなく少数派だったはずだ。ちなみに私は多数派に属していたのだが・・・・・。勝負ごとでは、敗北には必然性があるが、勝利は偶然性を伴う。日本代表も「運」という偶然が味方した面が個人的にはあったと思う。
しかしながら、偶然性だけではなく、西野監督が短期間の中で構想~実行した戦略、戦術が運を呼び寄せた面があったと感した。そして、企業経営にも応用できるものがそこには多々あった。

■組織を活性化させる「聴く力」
予選を突破した6月30日の日経新聞朝刊では、西野監督の「聴く力」が取り上げられていた。まずは選手やスタッフの考えや意見を聴き、最終的に監督が決める。代表の看板を背負う個性派ぞろいの中では、意見や考えの食い違いも当然あったであろうが、お互いを知ることで相互理解や共感は生まれる。いわゆる「風通しが良い組織」の起点だ。これはサッカーよりも企業経営においてより大切なことであり、人事と組織運営の要諦である。

■的確な「戦略目標」
決勝トーナメント進出という「戦略目標」も的確だったと思う。予選リーグでFIFAランクング最下位の日本にとって、決勝トーナメント進出は容易ではないが、「近い目標」としては適切だった。「近い目標」とは、手に届く距離にあって十分に実現可能な目標を意味するが、日本の実力からすれば、背伸びすれば何とか届く目標が決勝トーナメント進出であり、実際に何とか到達することができた。

■大胆な現実主義者
もっとも驚かされたのは、第3戦のポーランド戦の終盤での戦術転換。同点に追いつくどころか、さらなる失点の可能性もあった形勢の中、残り10分ほどで守備的MFの長谷部を投入。これで「0-1のまま負けろ!」という方針が明快に示された。そしてその後は、賛否両論があった自陣でのあのパス回し。風通しが良いチームの選手たちは、その方針に忠実に従った。
「もしセネガルがコロンビアに同点に追いついたらどうする?・・・・・」と考えるのはごく自然なことで、並みの監督ならこんな決断はできない。豊富な経験と選手への信頼を土台にした大胆な対応だった。
日経新聞の記事で経営コンサルタントの小宮一慶氏はリスク管理の観点からコメントしていたが、私は「コンティンジェンシー・プラン」が事前に十分に練られていたのではないかと想像した。試合前に十分な状況整理が行われ、目の前の現実に柔軟かつ適時に対応する準備がそこにはあったのではないか。今や都合の良い言い訳である「想定外」とは対極的なしたたかさが見てとれた。