企業を取り巻く経営環境の変化のスピードが増し、さらに複雑化している現在、個々の企業が抱える問題点も多様になり、「そもそも何が問題なのか?」自体を捉えにくくなってきているように感じる。そんな中で、今後の経営課題を設定し、その課題にどのように取り組んでいくべきかの「正解」(もっと正確に表現すれば「正解らしき答え」)を見出すのは、かなり難しい。
診断士の仕事を始めて2年ほど経った頃に、「コンサルタントだけで正解(らしき答え)を出すのはムリだ!」と気づいた。クライアント企業を最もよく知っているのは、他でもないその企業の経営者自身であり、ほんの限られた時間の中で関わったコンサルタントがその企業を理解するには限界があるからだ。それ以来、「答えはクライアント自身の中にある!」という考えの下、「正解(らしき答え)」をともに見つけ出す「コラボレーター」の役割を担うように心がけている。 そこで大切なのが、「クライアントといかに率直な対話ができるか?」だと思う。

先日読了した「謙虚なコンサルティング」は、その大切さを改めて思い起こさせてくれた。著者のE.H.シャインは、組織文化(組織風土)研究の世界的権威である。本書の中で、率直な対話ができる関係づくり(本書のことばでは「レベル2の関係」)、相手への「問いかけ」の重要性などを説いている。また、コンサルタントによる“上から目線的な”指導の効力にも一石を投じている。本書は、コンサルティングに留まらず、集団での合意形成を促すファシリテーションにも有用で、われわれ診断士にとっても優良な教科書だ。

コンサルタント(Consultant)とは、Consult(相談する)から派生した語で、元来は相談役を意味する。コンサルタントとは相談相手であり、相談とは対話である。コンサルタントの最も大切な仕事は、相談者に問いかけ、その答えをじっくり聴くことであり、それはまさに謙虚なコンサルティングなのである。