経営相談において、「ウチの社員が動かない!」「新しいことに挑戦しようとしない!」というお話をしばしば聞く。多くの企業の社長は、一般社員だけでなく、本来なら経営者であるはずの役員にも同様の見方をしている。私は、「何もセンム(専務)ですから!」と冗談交じりに答えることがある。

社員、さらに役員が「動かない」のは、冷静に考えれば、自然なことである。と言うのは、オーナー社長と、雇用されている社員、オーナー一族でない(いわゆる「雇われ」の)役員との間に、経営への参画レベルや目的意識に大きな差異があるのは当然である。さらには、人間の1つの特性として「保守性」がある。要するに、「面倒なことはやりたくない!」のが、人間の一面なのだ。今までと同じ慣れている仕事で同じ報酬がもらえるなら、その方が楽なのは自明である。

2年ほど前、日経新聞「私の履歴書」でニトリHDの似鳥昭雄氏が、「社員は抵抗勢力」と述べていたが、実体験を踏まえた的確で、かつ重みがある指摘だと感じる。

経営者にとって最も重要な仕事の1つは、「抵抗勢力」を揺さぶり、動かすことである。そのためには、経営者自身の考え方・価値感、会社の将来像を繰り返し繰り返し語り続ける必要がある。「動かない」なら、「動く」まで語り続けるしかない。「社長、また同じことを言ってるよ!」と社員に感じさせれば、それが効果なのだ。これは、「根気比べ」と言っても良い。

そしてもう1つ。役員・社員の日々の動きを観察し、適材適所になる組織を作り上げることも必要である。「社員(または役員)が動かない!」と語る社長ほど、社員(役員)が感じていること、考えていることを知らない場合が多い。社員・役員について知るには、個人面談を定期的に行うのが有効である。人事評価と組み合わせての面談でも良い。
また、日頃のコミュニケーションも大切である。社業が多忙であっても、社員・役員にそれなりに声をかけることはできる。仕事の話でなくても、家族のことでも良い。社員・役員の受け答えの様子からでも、その内面についてさまざまなことを感じ取ることはできる。

このような根気を要する仕事が、社長業であろう。「経営者は、『我慢業』です!」と私はしばしばお伝えしている。