「入りを量りて出るを制す」は、中国の古典「禮記」にある財政に関する基本原則である。日本では、二宮尊徳がこれと同様の経営思想を唱えている。要するに、収入と支出のバランスをとり、財務面の安定性を維持する重要性を説いているのである。

企業経営における要点の1つに、資金管理がある。企業は、どんなに赤字を生み出していても、資金を補充することができれば、支払能力を維持でき、結果的に事業の継続が可能になる。逆に、損益が黒字であっても、資金が枯渇してしまえば、支払能力を喪失し、最悪の場合には倒産に至る。これが、いわゆる「黒字倒産」である。したがって、資金状況の把握は、企業の存続にとってかなり重要なのである。

資金管理の実務として定例的に行われるのが、「資金繰り表」の作成である。資金繰り表は、通常3か月~6か月を目処に、収入と支出を予測し、手元の資金残高水準を事前に確認するためのツールである。予め資金が不足することを把握できれば、早めに資金の調達方法を検討することも可能になる。さらに、資金繰り表は、支出が収入に見合うものか否かを検証するためのツールでもある。資金繰り表の作成を通して、何にどの程度の支出をしているのかを“見える化”することができ、そこからムダな支出をあぶり出すこともできる。

しかしながら、資金繰りに苦しんでいる中小企業では、この資金管理が十分に行われていない。そして、資金繰り表が作成されていないことが多い。いわゆる「どんぶり勘定」であり、資金の出入りを把握していない状態である。私の経験上、特に、売上が即現金収入になる飲食業などで、資金管理が不十分な場合が多い。理屈の上では、先に現金収入を確保してから、仕入や経費、さらに借入返済などに対する支出を行うので、資金繰りが苦しい状況には陥りにくいはずなのだが、実際にはそうなっていない。事業者自身が、資金の状況を把握できておらず、「なぜおカネが足りないのか、よくわからない」と語る場面も多い。

資金管理が甘くなりがちな現金商売でこそ、資金繰り表を作成し、収入と支出のバランス感覚を身につけることが肝要だと言えよう。